手のひらの話

物語のような、呟きのような…

喜界島の味

喜界島出身の方と知り合ったので、焼酎「喜界島」を飲んだ。30年余り前の記憶がよみがえった。

二十歳の時、沖縄旅行を企てた。大阪南港から奄美経由のフェリーに乗った。2等船室で乗り合わせた人たちに名瀬で下船する年配の一団があった。一人の男性が気さくに声をかけてくれ、奄美までの航路の友としてくれた。

この人に奄美の焼酎を飲ませていただいた。

「辛いでしょう」

当時の私には酒の味がわからず、曖昧にうなづいた。飲めなくはなかった。

その後、いろいろの酒を飲み、焼酎の味もそれなりにわかるようになった。奄美黒糖焼酎も気に入り、たまに飲んでいた。

ところが「喜界島」をのむまで30年前の2等船室での味を思い出すことはなかった。つまり思い出したのだ。あのフェリーの中でいただいた焼酎は喜界島の酒だったのだ。彼らはおおまかに奄美と言っただけで、実は喜界島に帰る人たちだったのだろう。酒の味が思い出させた。