手のひらの話

物語のような、呟きのような…

母のことなど

    焼酎? 面白いですよ。

各地にこだわりの焼酎があって。芋、麦、米、蕎麦。

かつては米に芋などを混ぜていたのが、今では芋100%とか…。

    米がなければ発酵しないが、米は値が高いから芋や麦を混ぜていたのが、いつの間にやら芋、麦が主役ですよ。

    昔々はね南九州はいざ知らず、焼酎飲むのは敬遠されていたんですよ。うちの母なんか私が焼酎飲むと露骨に嫌な顔しますよ。

    私の祖父が飲んでいたんですよ。母の舅ですね。寝たきりの布団に小銭を隠し持って、それでたまに布団をあげると見えた小銭を祖母が掻き集めて…母はげんなりしたのでしょうね。その寝たきりの祖父が焼酎を飲んでいた。清酒に比べるととびきり安かったんでしょうね。うちは貧しかったから。

    母は浪費家とは言えないけれども、お金を使う人でした。私が高校生の時、一人で鉄道旅行を計画したら母は私に新しいスニーカーを買って来ました。今の靴では恥かしかろうと。

    返って格好悪いんですね。貧乏旅行している奴がピカピカのスニーカーなんて。まあそれはいいのですが、やはりその時代の人には焼酎の印象は良くないのです。

    私が最初の店を開いた頃には焼酎への偏見も無くなっていたと思うのですが、中にお一人、私より一世代上と思われる男性が焼酎を拒否されていました。その時、私は母の言葉を思い出していました。焼酎は嫌いと。

    母は語彙の貧しい人でしたから自らの思いをその場の感情でしか表現出来ないわけです。